鉗子分娩とは、鉗子という器具を赤ちゃんの頭にはさんで引っ張りだす分娩方法です。赤ちゃんが産道を通り娩出される最後の段階で、何かしらの問題があり分娩の進行が止まってしまうことがあります。そんな緊急時に鉗子という器具をつかい赤ちゃんを引っ張ってあげようという方法が鉗子分娩です。
「赤ちゃんの頭がすでに膣口に見え隠れしてあと少しで娩出される!」、そんなときにママのいきむ力がなくなってしまったり、陣痛が弱すぎて赤ちゃんの回旋がうまくいかない場合があります。他にも胎児心拍に極端に下がる、異常を疑われる出血があるなどがありますが、こんな状態が続くと母子ともに大変危険になってしまいます。
そんなときに赤ちゃんの娩出を助ける「最後の一押し(この場合は引くですが)」が鉗子分娩なのです。鉗子というヘラのような器具(野菜をつかむサーバーのようなもの)を赤ちゃんの頭に挟み、陣痛のタイミングとともに引き出すことで赤ちゃんが無事に産まれてくるでしょう。
鉗子分娩にかわる方法として吸引分娩があります。こちらは金属、シリコンなどの丸いカップを赤ちゃんの頭に当てて、掃除機のように吸引する力で赤ちゃんを引っ張り出します。鉗子分娩と吸引分娩のどちらが選択されるかは状況によってですが、最近は鉗子分娩よりリスクが少ない吸引分娩が選ばれることが多いようです。
鉗子分娩はメリットもありますが母体や赤ちゃんの損傷(ママ:子宮頸管、膣、膀胱など。赤ちゃん:頭蓋骨骨折、頭蓋内出血、顔面裂傷など)のリスクも多少は含まれています。鉗子分娩を行う必要がなければいたずらに医師が行うわけがなく、現状よりママや赤ちゃんが安全だと判断されたときに鉗子分娩が行われるのです。
鉗子分娩は紀元前から似たような道具を使い行われていたといいます。しかしはっきりと産科鉗子としての器具が残っているのは、1598年、イギリスのピーター・チェンバレンという医師が考案して利用した鉗子です。
チェンバレン家の医師はこの分娩方法と秘器の鉗子を公表せずに、4世代にわたり身内だけの出産法として秘密にしていました。しかし1753年、この鉗子が売却されたことによって鉗子分娩は瞬く間にヨーロッパで注目を浴び、鉗子の器具はその後に著しい改良を加えられるようになります。
産科鉗子:obstetric forceps