「ねえだっこして」は、竹下文子さんの書いた絵本です。イラストは田中清代さんで、原色のない温かさを感じる色使いです。どことなくレトロな色彩は、絵本の中の時間がゆっくり流れているような印象を受けます。
「ねえだっこして」は全編を通してイラストがメインのような、印象的な絵が並びます。でも登場人物はママと赤ちゃん、猫だけです。不思議な三角関係がゆったりした家庭の中で成立しています。
そして、この「ねえだっこして」は全編を通して、猫の目線で描かれています。猫が思っていることを、猫の目を通してママと赤ちゃんをみているような錯覚におちいります。
産後はママと赤ちゃんに焦点をあてている本が多いだけに、客観的にママと赤ちゃんを描いている絵本は興味深いものです。
とってもシンプルな内容で、とっても言葉少なめな絵本なのに、伝えたいことがぐっと心に染みる絵本です。
猫の家には、赤ちゃんが産まれました。今までかまってくれていたママは、赤ちゃんのお世話で忙しくなります。
猫は、自分とママの世界と同じように、赤ちゃんとママの2人の世界を目の前にして、ちょっとさみしくなってしまいます。
でも、猫はいつもママと赤ちゃんのそばで2人を見ています。けっして大好きなママの邪魔しません。この絵本では、そんな時に猫がどう思っているのかが描かれています。
「ねえだっこして」は猫の寂しさや、切ない気持が短い言葉に込められています。ちょっと強がってはみるものの、やっぱりお母さんから離れられないのです。
猫の気持ちは、今まで家庭の中心で可愛がられていたからこそ感じる切ない気持ちです。ママの膝の上が気持ちいいことを知っているから、赤ちゃんを羨ましく思うのではなく、自分も膝の上に行きたいと願います。
絵本のイラストでは、ママの膝が丸く優しい雰囲気で描かれています。きっと猫にはそんなイメージなのでしょう。
「ねえあかあさん おかあさん ときどきでいいから だっこして」という猫の気持ちに、赤ちゃんを羨ましく思ったり妬ましく思うのではなく、自分のことを忘れないでほしいという気持ちが伝わります。
猫目線で思うことは、ママが赤ちゃんのお世話をしている時、周りがどんな気持ちなのか考えたことがあるだろうかということです。意外にも慌ただしい出産後は、周囲にまで気を配れないことが多いものです。
妊娠・出産で苦労したり、気持ちや体型に変化があるのは自分だけだと思っていませんか?妊娠中に読むと、色んな視点から妊娠中・産後の自分を見つめることができます。幸せな自分の傍で、全く違う気持ちの誰かがいるかもしれないと考えてみるきっかけになりそうです。
「ねえだっこして」は猫の気持ちを描いていますが、これはお兄ちゃん・お姉ちゃんのいる家庭でも当てはまります。
お兄ちゃんやお姉ちゃんになった子どもは、今までママの膝の上を占領していた猫と同じ立場です。赤ちゃんの誕生が嬉しくて、自分がお兄ちゃん・お姉ちゃんになることが嬉しくて誇らしい反面、ママから離れていくような寂しさを感じます。
ママにしてみれば、この猫も、お兄ちゃん・お姉ちゃんも「今までママの膝をひとり占めしていたから、今度は赤ちゃんに譲ってくれるかな」と思うかもしれません。でも、猫やお兄ちゃん・お姉ちゃんにとって、ママの膝の上は時間がたてば譲れるものではなく、何にも代えがたい特等席なのです。
第2子以降を妊娠中のママは、この本を読めば伝わるものがあると思います。弟や妹の誕生を心待ちにしている子どもの心の中を違う視点から見つめることができるからです。
「ねえだっこして」を読んだ後はきっと、お腹のおおきいママや、産まれてくる赤ちゃんを待ってくれているお兄ちゃんやお姉ちゃんが愛おしく感じることでしょう。
お姉ちゃん・お姉ちゃんが、子どもながらも色んなことを考えたり我慢している姿を理解しているつもりでも、こうして言葉で読むと本当に妊娠・出産は周囲にも影響を与える事なんだと実感します。
竹下文子さんは、猫の手も借りたいとおもっていた人のもとへ、本当に猫がお手伝いさんとしてやってくる「わたしおてつだいねこ」シリーズも書いていて、猫好きにはお勧めの作家です。
ペットを飼っている家庭や、猫好きには楽しいお話です。低学年向けのシリーズですが、逆に文字も大きくお話も解りやすいので、忙しい合間にも無理なく読むことができます。
他にも「せんろはつづく」といった幼児絵本も手掛けているので、男の子ママは産後も目にする機会があるかもしれません。電車好きのお子さんへの贈り物にも最適です。
お絵かきが好きな女の子には「そらとぶクレヨン」が、クレヨンの無限の楽しさを伝えています。これは未就学の子ども向けなので、赤ちゃんのお姉ちゃんに最適です。