「ちいさなあなたへ」は、2008年に主婦の友社から発行された、アリスン・マギーさんの絵本です。もともとはアメリカで出版されましたが、あまりの反響に児童書分野では「ハリーポッター」シリーズを押しのけて堂々の1位になりました。
作者のアリスン・マギーさんは児童書界でも、母親の気持ちを短くわかりやすく伝えている文章に定評があり、児童書といえども親がよむと心に響くような本を描き続けている作家です。
イラストはピーター・レイノルズさんで、アリスン・マギーさんの絵本の挿絵を幾つか手がけています。作者は違いますが小学生向けの「ジュディ・モード」シリーズの挿絵も手掛けています。流行に流されないシンプルなイラストは、読む人を選ばず嫌みのない印象です。
「ちいさなあなたへ」はママが、赤ちゃんのお世話をしながら思うことが、いくつも言葉になっています。1つ1つは些細なことばかりです。
特に冒頭の「あのひ、わたしはあなたのちいさなゆびをかぞえ、そのいっぽんいっぽんにキスをした」という言葉は、赤ちゃんを思うママなら誰もが納得のいく文書ではないでしょうか。
赤ちゃんの指1本1本にキスをするなんて些細なことですが、そこにはママの赤ちゃんへの思いが沢山詰められているのです。言葉にできない愛情や、言葉にしたら延々と続くような赤ちゃんへの気持ちが、この一文に納められてしまうことに脱帽です。
「ちいさなあなたへ」がベストセラーになった理由は、ママと赤ちゃんがしていることが普通の事だからではないでしょうか。特別に凄い家に住んでいたり、旅行をしたから思い出が多いというわけではないのです。
「ちいさなあなたへ」では、誰もが経験するママと赤ちゃんの出来事が描かれています。だから、国や年齢に関係なく、全てのママが読んで共感できるのです。
「ちいさなあなたへ」の最後、ママは大きくなった子どもを想像しています。この時にママが思うことも、また赤ちゃんが産まれた時点で考えてしまうことです。
母親は赤ちゃんを育てるだけではなく、いつまでも成長を見守っている存在です。手をつないで歩いていた姿が、1人で自転車に乗る姿になり、やがて自分と同じように母親になる家庭を想像していく言葉の数々に、多くのママが共感して涙を流してしまいます。
「ちいさなあなたへ」は、母親の無償の愛が詰った言葉が並んでいます。言葉の1つ1つに派手さはなく、飾り立てた文章もありません。でも不思議と心に響いて涙が止まらなくなりました。
ママ業は、時給に換算したら涙が出るような低賃金になるだろうと多くのママがいうように、けっして楽しいだけではありません。でも、それを上回る「何か」があるから、みんな子育てをしているのだと思います。
その「何か」を言葉で表現するのは難しいと思っていましたが、「ちいさなあなたへ」はまさにその「何か」を言葉にしている絵本です。
「ちいさなあなたへ」は、赤ちゃんが産まれた日からのお話ですが、妊娠中に出産への恐怖・育児への不安がある時に読んでほしい1冊です。
出産はちょっと怖いかもしれませんが、「ちいさなあなたへ」を読むと、赤ちゃんが産まれた瞬間から妊婦さんはママになるんだと解ります。赤ちゃんの指に1本1本キスすることが、出産の痛みをも上回ることが伝わります。
育児への不安を感じている人にもお勧めです。赤ちゃんが産まれると、日々の生活がめまぐるしくて精一杯になりがちです。子どもを1人育てることは容易なことではありません。それが解るからこそ、育児への不安は募ります。
そんな不安を感じる時に「ちいさなあなたへ」を読んでみてください。ママになると、こんなにもわが子のことを見つめるんだと実感できます。「母乳が出なかったらどうしよう」と悩んでいても、「ママのすべきことはそれだけではない」と広い視点で育児を見つめるきっかけになります。