毎日新聞で、妊娠・出産にまつわる興味深いニュースがあったので紹介します。
早期閉経の患者の卵巣を摘出して卵子を成熟させ、再び患者の卵管付近に卵子のもとを移植させて卵子を熟成させる方法によって体外受精を可能にして、妊娠した患者2人のうち1人が出産に成功したそうです。閉経を迎える時期がわからない女性にとって興味深い結果です。
早期閉経とは、40歳前に月経がなくなってしまうことです。だいたい平均的にも50歳頃が閉経の時期だとみられています。
閉経前後10年ほどは更年期(こうねんき)とも呼ばれるように、閉経は20代や30代とは無縁だと思われがちですが、早期閉経患者のなかには20代や30代の女性も含まれています。
つまり妊娠・出産を考えている20代女性でも閉経してしまうことがあるということです。
早期閉経とは、月経が止まってしまうだけではありません。そもそも月経による出血は、子宮内膜がはがれ落ちた不要物が含まれます。不要物と言ってもゴミではありません。とっても大切な役割を担っているので再び新しい子宮内膜が生成されていきます。
というのも、子宮は受精卵が着床して妊娠すると、赤ちゃんが育つ部屋になる役割があります。子宮の周囲は子宮壁(しきゅうへき)で覆われています。子宮を赤ちゃん部屋に例えるなら、子宮壁は壁です。子宮内膜は、その壁の最も内側にあると思ってください。
もしも早期閉経になると、月経がおこらないので子宮内膜が作りかえられなくなります。妊娠をのぞむ女性にとっては、不安材料になってしまいます。
さらに月経とセットで考えられることもあるのが排卵(はいらん)です。排卵も月経周期の家庭の1つと考えられています。だいたい月経のはじまった2週間後から排卵がおこります。
こうした一連の流れが早期月経によって確実になくなった場合、新たな卵子が子宮に届かなくなるのは妊娠を希望するうえでつらいことです。かといって月経や閉経は自分で簡単にコントロールできるものではありません。
閉経によって、女性自身の意思に関係なく妊娠の可能性が変わってしまうことは避けたい問題です。こうした悩みが軽減されるためにも、新たな医療の進歩が待ち望まれています。
紹介するニュースでは、聖マリアンナ医大など日米チームによって早期閉経患者から卵巣を摘出して、卵子のもとになる細胞を卵子に成熟させる方法がとられました。この方法で日本人患者が出産をしたことは国内だけではなく、世界でも初めての結果だそうです。(参考1)
聖マリアンナ医大らのチームでは、20代後半から40代前半の早期閉経患者27人の卵巣を、腹腔鏡手術で摘出しました。腹腔鏡手術とは、お腹に小さな穴を幾つかあけて、炭酸ガスを入れてできた空間にカメラや手術器具を入れておこなう手術です。跡が小さく目立たないメリットがあります。
こうして摘出した卵巣は急速冷凍で鮮度を保ち、解凍後に卵子のもとになる細胞を培養したそうです。これを卵子が成熟するに適した卵管付近に、再び戻しました。
そして卵子が成熟したら採取して、今度はパートナーとの顕微授精を行います。こうしてできた受精卵を子宮に戻すことで、3人中2人が妊娠、そのうち1人が出産しました。
出産に成功した女性は29歳で卵巣摘出、出産時は31歳だったそうです。このことからも早期閉経が20代の健康な女性でもおこりうる症状だと考えさせられました。
今回は27人が卵巣摘出して結果は3人しか受精卵を子宮に戻していないことや、子宮に戻しても100%妊娠できる保証がないこともわかりました。女性にとって、いかに妊娠が簡単なことではないと実感する結果です。
でも、逆にこの技術がなければ3人は子宮に受精卵を戻すこともできなかったかもしれません。こうしたちょっとずつの進歩が重なった結果、1人が出産に至ったわけです。今後もっと成功例や新たな技術が加わっていくことが期待されます。
なによりも、「閉経」という言葉にはマイナスな印象もあります。「早期閉経」ならなおさら、女性として1つの機能が予定よりも早くなくなった気分にもなるものです。だからこそ、女性の悩みである早期閉経による妊娠への壁に、希望がもてる今回の成功例に喜びを感じます。
参考1:毎日新聞「<出産>早発閉経で初 卵子のもと成熟させ体外受精」