妊娠を理由に降格された女性の提訴が一審、二審を覆して最高裁で逆転勝訴しました。働く妊婦と雇用側での意識の相違、マタハラ対策が現場に浸透していない問題も浮き彫りになりました。
マタハラとはマタニティハラスメントです。マタニティハラスメントとは職場など妊娠中の女性が妊娠や出産に関わる嫌がらせを受けたり、実際に妊娠を理由として退職や減給を強要することです。
ほかにも、採用時に妊娠しないことを雇用条件に提示して契約させたり、会社の定めている育児休暇を実際には認めてくれないケースも含まれます。
マタニティハラスメントの難点は、妊娠中や産後の職場復帰を考えると雇用側に意見を通すことができずに言われるがままの指示に従い、泣き寝入りする妊婦がいることです。
マタハラだと主張できても、周囲との連携がとれずにわがままだと思われたり、勝手な意見だと受け取られて職場に居場所がなくなるケースもあります。マタハラを解決するには周囲との連携や、よく話し合うことが大切だと考えられます。
それでもマタハラが解決できない場合、最近では訴訟を起こすケースがあります。これがマタハラ訴訟と呼ばれています。ただ、訴訟は妊婦にとっては体力的負担や精神的ダメージが大きいのでリスクが無いわけではありません。
訴訟は妊婦だからといってすぐに解決されるものでもなく、勝訴が約束されているものでもありません。妊娠中や産後の負担を考えると訴訟したい気持ちに歯止めをかけてしまうこともあると考えられるので、マタハラ訴訟には大きな注目が集まっています。
今回、マタハラ訴訟で逆転勝訴となったのは2004年に、とある病院の管理職の副主任に昇格した理学療法士の女性です。
女性は2008年に妊娠が判明して、業務が可能だと考えられる部署への異動願いを出しました。妊娠をきっかけに異動願いをだすのは労働基準法65条3項に基づくものであり、妊娠中の軽易な業務への転換は認められました。
ところが、異動後は管理職も外されてしまいます。その後、育児休業終了後の職場復帰でも副主任の管理職に戻されることがなかったことから、彼女は雇用側である病院にたいして雇用機会均等法9条3項違反として降格の無効を求め、管理職手当の支払いと損害賠償を求めました。
女性は妊娠中に異動して降格したのはやむを得ないと承諾したそうですが、復帰後も降格したままで管理職への復職がないことから2010年10月、提訴に踏み切った経緯があるそうです。
この提訴にたいして一審と控訴審(こうそしん)は病院の人事配置上の必要性や、じょせうび同意を得たうえでのこととして、雇用機会均等法9条3項違反には当てはまらないと女性の訴えを退けていました。
これに対してあきらめなかった女性側は最高裁に心理をゆだねます。2014年10月23日には、最高裁は一審と二審の判決を破棄して、広島高裁に差し戻しました。
破棄差し戻し担ったということは、事件をもとの裁判所に送り返して再度審判を行うことです。日本では三審制(さんしんせい)といって、第一審(だいいっしん)・控訴審(こうそしん)・上告審(じょうこくしん)の3つに分けられています。
第一審と控訴審は事実審(じじつしん)と呼ばれ、事実確認のうえで法令に基づいて判断されています。ちょっと難しい言葉ばかりになりますが、裁判をするということは1回の判決だけで決定づけられるものではないということです。
上告審ではそれまでに確定した事実を確認してさらに審理をするのですが、ここで否定された判断がある場合などは、控訴審に差し戻して事実を認定させます。つまり今回のマタハラ訴訟も破棄差し戻しとなったことで、二審判決を破棄されました。もう一度、審理を重ねることとなったのです。
最高裁の判決では、女性が育休後も管理職に復帰できていない事実が、妊娠による軽作業への業務措置が一時的なものではないと判断しています。対して病院側は、女性が復帰するときすでに職場には副主任がいたことから、男女雇用機会均等法に違反する行為ではないとしていました。
この判決には、同じようにマタハラで社会的地位が変わってしまった女性や、まさに妊娠中で悩んでいる女性にとっては励みとなり、雇用側にも一石を投じて考えさせられる結果となりました。
一審、二審ともに敗訴の判決だった女性の訴えは、2015年11月17日の最高裁での差し戻し控訴審判決により逆転勝訴しました。ここでは女性の降格が、「明確な同意か業務上必要な特段の事情」かどうかが争点となりました。
裁判長は「病院は、使用者として女性労働者の母性を尊重し職業生活の充実の確保を果たすべき義務に違反した過失がある」と述べたそうです。「女性を再任用(副主任として)すると指揮命令が混乱する」という病院側の主張は具体性に欠けるとして退けられました。(参考1)
妊婦本人の承諾なしに降格したことがどう判断されるか、1つの結論がでるまでに約5年かかりました。女性が妊娠してからは単純に2008年から2015年と考えて、7年もかかって結論がでたことになります。このことからもマタハラ提訴がけっして妊娠中のわがままや気分でできるものではないことがわかります。
妊娠したらどうしたいのか、どう働くべきかの判断や意識の差がこうした結果に繋がりかねないと考えられます。
妊婦が働くとき、仕事の軽減のための異動を申告できる法律を知らない女性も多いのではないでしょうか。周囲も知らなければ「妊娠したから楽な仕事ばかりしている」と思われてしまいます。どちらかが知らずに仕事内容を変えたり、移動することで反感を買ったり負い目を感じます。
マタハラに対する法の整備や、取り組みが増えましたが現場となる職場ではあまり浸透していないような場面も多々見かけられます。妊娠という盾を振りかざして、楽に働いていると思われるケースもいまだに0ではありません。
今後は、妊婦の労働や育児休業制度に関する知識が妊婦だけではなく職場全体に広がることが求められます。今回の勝訴は妊婦に大きな励みとなりましたが、それだけでは何の解決にもなりません。
妊婦はどうやって妊娠中に働くべきか、周囲はどこまでサポートするべきなのか、簡単そうで難しい問題です。
参考1:日本経済新聞
マタハラ降格に賠償命令、女性が逆転勝訴
広島高裁差し戻し審
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